監査とデータ分析

執筆者 上野 哲司

マネージャー

■国際認定CAATs技術者(ICCP)

■公認会計士

■システム監査技術者

大手監査法人において、公認会計士として上場企業等に対する財務諸表・内部統制監査およびシステム監査業務に従事。2020年より三恵ビジネスコンサルティング株式会社に入社し、現在は、CAATs導入支援やCAATs技術者の育成に関する研修講師を担当。

「内部監査の高度化、効率化を図るためにデータ分析を取り入れたいが、何から始めればいいんだろう。」

今回は、できるだけ簡単にデータ分析を監査に取り入れていくために、「全般分析」と「個別分析」という考え方を使って、どうのようにデータ分析を監査手続に取り入れていけばよいか、考察してみたいと思います。

●データ分析技法であるCAATsとその特徴

世の中には様々なデータ分析技法があると思われますが、ここでは、「コンピュータ利用監査技法」、いわゆるCAATs(*1)を活用したデータ分析をご紹介します。

まず、コンピュータ利用監査技法とは(CAATsとは)、監査人がコンピュータとデータ(IT)を利用して監査手続を実施する技法をいいますが、CAATsは、蓄積された業務データなど過去・現在のデータに対してデータ相互間の整合性やシナリオに基づく通例ではないデータ抽出など、不正・誤謬の発見、業務効率の向上などに適した分析技法といえます。

ということは、CAATsを活用したデータ分析監査は、主に過去・現在のデータに焦点をあてた分析技法といえそうですよね。

●データ分析の進め方

CAATsを活用したデータ分析は、データ相互間に何らかの関係が存在すると仮説を立てておき、その仮説に沿って分析・検討して評価していくわけですから、立案した仮説と矛盾したり、データ相互間に大きな乖離や変動があった場合には、「ん?何か変だぞ?異常かもしれないぞ?」と思いますよね。

そして、その「異常かもしれないぞ」に対して、本当に異常なのかどうかを個別に検討していく、ということになります。

そのため、データ分析の進め方としては、

(1)仮説立案フェーズ:

データ項目の特徴やデータ相互間の関係、過去事例などから仮説を立てて分析シナリオを設計する。

(2)全般分析フェーズ:

個別分析の抽出条件のヒントを得るために、様々な視点で過去・現在のデータを比較検討し、   分析対象データの全体像を把握する。

(3)個別分析フェーズ:

「異常かもしれないぞ?」=通例ではないデータを個別に抽出して詳細に検討する。

といった3フェーズを、相互に繰り返しながら作用させて分析結果を導き出すような進め方になると思います。

ただし、よくある失敗としてご注意いただきたいことがあります。それは、データ分析を行うこと自体が目的となってしまい、「何のためにデータ分析をするのか」を明確にしないままデータを眺めてしまうことです。

データ分析は、データの背後にある経済事象を把握するために、仮説を立ててから過去・現在のデータを分析していきます。

そのため、データ分析の目的が定まらないと、仮説が立てられずになんとな~く分析をしてしまい、その結果、時間だけが過ぎていってしまいます。

●全般分析と個別分析の違い

上述したように、データ分析は3つのフェーズを相互に繰り返しながら進めていきますが、これらを内部監査に当てはめると概ね下記のようなフェーズで実施していくと思います。

(1)~(2):

監査計画の策定時に仮説を立案したり、分析シナリオを策定しますが、その際には過去事例や全般分析を行います。

​(3):

また、準備~実証手続において、通例でない取引を抽出したり詳細なデータ分析として個別分析をしていきます。

ここで大切なことは、全般分析と個別分析では、その目的や着眼点が異なるということです。

<全般分析>

目的  :

分析対象データの全体像を把握するための分析であり、同質性に基づいてデータを分割して比較する。

着眼点 :

ヒト、モノ、方法、場所、時間などを軸にした同質性の分析

<個別分析>

目的  :

特定の基準を設定して、基準から外れているデータを特定する。

着眼点 :

会計数値、内部統制、社内ルールなどを基準として設定して外れ値や通例でない取引を特定

このように、全般分析はあくまでも全体像を把握するためであり、個別分析は外れ値や通例でない取引を特定するために行う分析といえます。

例えば、全般分析としては・・・

A)製品別という同質性に基づいて、四半期別の販売単価の分布を確認してみる。

B)得意先別という同質性に基づいて、債権の回収サイトを確認してみる。

C)販売ルートという同質性に基づいて、承認者の妥当性を確認してみる。

例えば、個別分析としては・・・

a)製品別販売単価として基準を設定し、外れ値を特定する。

b)得意先別回収サイトとして基準を設定し、外れ値を特定する。

c)社内規則や内部統制を基準として設定し、通例でない取引を識別する。

もちろん、実務としては必ずしもウォーターフォールのように「計画→準備→実証手続→結果・フォロー」と綺麗に流れるものではなく、手続結果の内容や影響の程度に応じて適時に計画や手続内容を見直していくことになると思いますが、まずは全般分析で同質性に基づいて分割・比較してデータの分布をみることで全体像を把握し、個別分析に有用な抽出条件などのヒントを得たうえで、個別分析により外れ値や通例でない取引を抽出する、といった流れでデータ分析をしていくと比較的スムーズに取り入れることができると思います。

●データ分析を身近な手続に!

ここまで読んでくださった方の中には、この内容が簡単すぎたり、既に取り入れたりしている方もいらっしゃるかと思いますが、この考え方をしっかりマスターしておけば、統計的手法を取り入れた分析もできるようになります。

例えば、「販売単価」に着目して偏差値を算定し、偏差値が異常に低いor高い取引データを抽出する方法が考えられます。

また、実務上は、ある特定の分析軸(例えば、「販売単価」)のみの分析で異常な取引をあぶりだすことは難しいと考えられますが、その場合は、複数の分析軸(例えば、「販売単価」、「仕入単価」、「販売数量」に加えて「計上月別」、「地域別」などなど)を組み合わせることで、通例でない取引を絞り込んでいくことが可能になっていきます。

複雑なデータ分析も全般分析と個別分析が元となっていますので、ぜひとも全般分析と個別分析をマスターして、内部監査の高度化や効率化を図ってみてくださいね。

<その他の分析シナリオに関連する記事>

*1) 日本では、「CAAT」と表記されることが多いのですが、海外では、複数形のsをつけたCAATsと表記されることが多く、一般社団法人国際コンピュータ利用監査教育協会(ICAEA)(*2)でもCAATsという言葉を採用しているため、当ページでもCAATsという言葉を使用しています。

 

*2)ICAEAは、「International Computer Auditing Education Association」の略称であり、CAATsを実務で活用できる人材を育成することを通じて、 従業員不正や事業部不正等の日常的な不正・誤謬の発見、防止に貢献することを目的としている団体です。

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